震災を乗り越え、“美酒伝承”を守り続ける【酔仙酒造】に密着!

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気仙地方は、岩手県の三陸海岸最南端に位置する風光明媚な場所です。

その温和な気候は、寒造りとはいえ、寒過ぎず酒造りに適した気温で、多くの鍾乳洞で知られる北上山塊をくぐり抜けて湧き出した深層地下水は、豊富にミネラル分などを含む事から、醸造環境に適した地として知られています。

そんな自然豊かな気仙地方で、“美酒伝承”を掲げて酒造りにひたむきに向き合い、地元はもちろん全国各地のファンにも愛されてきた【酔仙酒造】。

平成23年3月11日、誰もが忘れもしない、東日本大震災で破滅的な被害に見舞われながらも、想いを一つに、復興に尽力してきました。

「日常を取り戻したい」「歴史を繋いでいきたい」という強い意思を支えに、徐々に販売出来る銘柄を増やし、新しい歩みを進めています。

今回は、そんな【酔仙酒造】の復興までの道のりや、酒造りのこだわりに密着しました。

(提供:酔仙酒造)

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【酔仙酒造】の歴史

岩手県三陸海岸の最南端に位置する気仙地方。そこに、永い伝統を誇る造り酒屋が8軒ありました。昭和19年、当時戦時中であった日本の「企業整備令」に基づき、この8軒が1つにまとまり、新しい企業体「気仙酒造株式会社」が設立されました。これが「酔仙酒造株式会社」の前身です。

この蔵のお酒を生涯に渡って愛飲した地元出身の日本画家・佐藤華岳斎が、「酔うて仙境に入るが如し」と讃え、銘柄を「気仙」から「酔仙」へ改めるよう勧めた事が酒名の由来で、「芳醇にして飲み飽きしない酒」・・・いわゆる矛盾の追求を酒造りの永遠のテーマに、陸前高田の本社工場では操業開始以来、改良と試行錯誤を重ねて独自の酒造りを確立してきました。

昭和40年には主力銘柄である【酔仙】を冠して「酔仙酒造株式会社」と社名を改め、更に昭和45年には、もう1軒企業合同。

以降は、純米酒や吟醸酒の普及に早くから取り組むなど、美酒伝承に努めながら、【活性原酒・雪っこ】の開発、ワイン酵母を使用したライスワイン【メリーすいせん】や、瓶内二次発酵の発泡性清酒【酔仙ShuWaWa】など新しい日本酒への挑戦も積極的に行い、地元では老舗の酒造として親しまれ、全国各地のファンも多く、“酔仙ブランド”は多くの人から知られる蔵元となりました。

そんな中、平成23年3月11日、東日本大震災発生。大津波により従業員7名の尊い命と、社屋・造り蔵・瓶詰工場など全てを流失し、酒造りの再開は絶望的と思われました。

しかしながら、多くの方々からの温かい励ましの言葉や沢山の支援を受け、【酔仙酒造】一丸となって復興に取り組み、平成24年8月「酔仙酒造株式会社・大船渡蔵」が竣工し現在に至っています。

 

震災から再スタートへ

平成23年3月11日、14時46分、東日本大震災発生。今まで聞いたことの無いような地響きと激しく長い揺れが続き、 その30分後、海岸から2キロに位置する酔仙酒造まで津波は到達しました。工場そして、登録有形文化財に指定された本社事務所や倉庫、旧守衛室は全て津波に飲み込まれ、酒造にまつわる全てが流されました。

何十年も積み重ねてきた全てを失い、また数名の方が亡くなる中で、「酒造りはもう出来ないのか…」と多くの社員に落胆の気持ちが襲いました。

そんな中、この直後に報道カメラのインタビューで社長が「必ず復興する!」と明言しました。この事で会社としての方向性が決まり、酔仙の復興が始まりました。

金野連社長の想い

製造するための設備、販売するための在庫、全てを失い壊滅的とも言える状況で「今まで紡いできた歴史を次に繋げたい』、「震災前と変わらない日常を取り戻し、酔仙のお酒を好きで待ってくれている人に届けたい。」その気持ちが原動力となり、金野社長を突き動かしたといいます。

また、震災から1か月経ったある日、『酔仙復活するんだろう?』と、復活する事が当たり前かのように言われた事でハッとし、『うちらがやらなくて誰がやる!』と奮起したそうです。

村上賢一杜氏と【酔仙酒造】の復興

【酔仙酒造】の杜氏、村上賢一さんは、震災があった翌月、金野社長から「一緒に酒を造ってほしい」という連絡があった際、精神的に参っていた事と、現役で頑張る齢は過ぎていると感じ、これを機に引退も…と考えていた事から、その声掛けを断ったそうです。ところが、社長の『雪っこを造ってくれ』という言葉に心を強く突き動かされ、再び酒造りを再開する事を決意しました。

その『雪っこ』というのは、村上杜氏が【酔仙酒造】に入社した約45年前に商品開発が始まり、みんなに愛されるようになるまでをずっと見守ってきた、村上杜氏にとって子どものような存在だったそうです。

長い歴史を共に成長してきた雪っこ。地元の人から、『切らさないでくれ』と言われた事も相まって、やらずにはいられない、と村上杜氏は奮い立ったそうです。

復興までの道のり

村上杜氏の決意とともに蔵人たちが集結。県内の同業者である岩手銘醸の稼働していなかった蔵である玉の春工場を借り受け、醸造を開始しました。

まずは10年稼働していなかった蔵掃除からスタート。そしていざ酒造りの段階となれば、他の蔵で造った事がなかった為、全てが初めての体験で、 本当に試行錯誤の毎日だったそうです。

そして、本来寒い時期に造り始めるお酒を真夏の熱さの中で造る事に対する様々なプレッシャーをも乗り越え、努力と奮闘により、雪っこは無事に完成。例年通りの販売開始に間に合わせる事が出来ました。

それからは、翌年、大船渡市に完成した新工場での酒造りがスタート。まだまだ苦労は続き、困難な状況でしたが、玉の春工場で雪っこを造った事が大きな自信となり、年内には、従来通りの造り方で仕込みを開始するまでに至りました。

奇跡の一番樽

東日本大震災によって、本社・工場内のもの全てが流されてしまった中で唯一、支柱の瓦礫端に引っかかって残っていたというものがあります。

それが、この『樽』。樽の札を見ると、そこには「1番」の文字。奇跡的に1番樽が残っていたのだそうです。

1番樽が奇跡的に残っていた事から、「頑張れ」という何かのメッセージなのではないか、と現場にいた社員全員が感じたそう。

この1番樽は現在、大船渡市の本社内に震災直後の様子を撮影したパネルとともに酔仙酒造の希望のシンボルとして飾られています。

 

酒造りのこだわり

震災後、酒造りを再スタートするにあたり、【酔仙酒造】には様々なこだわりがありました。

味を変えない事、それが第一

酒造用水に必要な条件は、まずクセや異臭が無く奇麗である事。生酸菌や鉄分、マンガンなどが含まれていない事が重要です。次に適度な硬度を持っている事。硬水に含まれるカリウムやマグネシウムは酵母の代謝に必要な栄養で、発酵の源です。またカルシウムも酵素の生産や活性を活発にする物質として有用です。

【酔仙酒造】が玉の春工場で雪っこの醸造を行っていた間、以前と変わらない、氷上山系の水質である場所を求めて工場探しに奔走。酒の成分の80%を占める“水”は酒造りの要である為、味を変えない事を第一に考え、以前と変わらない氷上山系の水質である、大船渡市の地を選んだのだそう。

この場所は、陸前高田と水源を同じくして同じ水が流れています。大船渡蔵は北上山系に属する氷上山(ひかみさん)の麓に位置していて、地下水はクセがなく奇麗で、程良い硬度を持っています。

【酔仙酒造】では洗米、浸漬、仕込み水に至るまでこの氷上山の伏流水をふんだんに使って清酒を醸しているのだそう。

地元に根ざした酒造りは米作りから

こだわりは、使用するお米にも。今までは山田錦も使用していたそうですが、震災後から、使用するお米を岩手県産米のみにシフト。震災を受けてより地元に根ざしたお酒造りを目指していこうという気持ちが強くなった事から、地元の農家さん達の協力を得ながら、自分たちの手で育てたお米でお酒を造るという事に取り組んでいます。

化学肥料を使わず、酒粕や焼酎かすを使用した土づくりに始まり、減農薬で育てる、といったこだわりで米作りを行っているのだそうです。

吟醸用に使う岩手県産の「結の香」というお米は、山田錦に負けず劣らずの品質で、鑑評会でも金賞を受賞した程。

 「きれい」なお酒を造る為の麹造りのこだわり

旨さとキレは相反するもので、矛盾するものと思われがちですが、お酒にとって呑み飽きしない事はとても大事な要素です。お酒が進むという事は舌や鼻に引っかかる物が無いという事で、「きれい」であるという事です。「きれい」なお酒を造るには、原料米の選定、精米歩合、発酵管理など色々な手段がありますが、「重くない軽快な麹造り」もそのうちの一つです。

風味をしっかりと出しながらも軽快な麹を造る為に、広く大きな麹室を使い、前半は十分に湿度を保ち、後半からはしっかりと麹米を乾かします。そして、【酔仙酒造】では、種麹菌にもこだわっていて、岩手県オリジナルの『黎明平泉』を使用しています。

こうして出来た麹は極力短い枯らし期間を経て醪(もろみ)へ投入されます。【酔仙酒造】では無駄なものを削ぎ落した、ある意味簡潔な麹づくりを目指しているそうです。

気仙の風土を感じられる地産地消の「地酒」を目指して

情報と流通が発達し、「地酒」の意味も変化してきている昨今。「地酒」は以前ほどその土地の風土を感じるものではなくなってきているように感じます。

そんな中でも、三陸の食材に合ったお酒、岩手沿岸からのお土産や贈り物として捉えて頂けるようなお酒として、沢山の物事に埋もれる事無く気仙の風土を思い出して頂けるお酒を目指していきたい、というのが 【酔仙酒造】の方針。

【酔仙酒造】では、「自分たちの県で作ったお米とその土地の水で、南部杜氏が造る」これが今一番の最優先課題だそうです。

お米は岩手県産米『結の香』、酒造用水は氷上山系深層地下水、麹には岩手県オリジナルの種麹菌『黎明平泉』を使い、酵母は岩手オリジナル酵母『ゆうこの想い』や、『ジョバンニの調べ』を中心に使用と、原料に地元のものを使用する事への徹底したこだわりが感じられます。

工場が再稼働した当初は、とにかく酔仙のお酒を通して地元の人たちに元気になってほしいという想いで「地元の人たちが楽しめるお酒」がテーマだったそう。

今は『元気だった時の自分を思い浮かべるようなお酒を造ってください』と金野社長は杜氏に伝えているそうで、「 酔仙も昔と変わらずに復活した、だから皆さんも前みたいに頑張ろう」という気持ちを込めて酒造りに取り組んでいるのだそうです。
震災を機に、今まで以上に地域交流も盛んに、地元に根ざした酒蔵である誇りを大切に、更なる酒質向上を目指していきたい。それが【酔仙酒造】の酒造りの理念となっているようです。

【酔仙酒造】おすすめ商品

【酔仙酒造】について詳しく知って頂いたところで、ここからは、【酔仙酒造】渾身の銘酒10選をご紹介します。

活性原酒 雪っこ(10月~3月発売)

村上杜氏の復興のエピソードの中でも触れた「雪っこ」は、とろりとした口当たりとまろやかな甘さが特徴の飲みやすい活性原酒で、40年以上のロングセラー商品。

ライム等の柑橘類の果汁を数滴入れたり、アルコール度数が高めなので、サイダーなどの炭酸やホットミルクなどで割って、オリジナルカクテルを楽しめます。夏に作り置きした『シソジュース』があれば、美しいピンク色のリキュールが楽しめます。

チゲ鍋などの辛いものや、味の濃いものにもよく合います。暖かいお部屋で熱々の鍋料理を囲みながら飲む【雪っこ】は格別!冬にしか味わえない特別な美味しさを是非お試し下さい!

純米大吟醸

こちらは平成29年の全国新酒鑑評会で金賞を受賞した純米大吟醸。

白米から製麹、発酵、搾りに至るまで時間と手間を惜しまず丹念に造り上げられた純米大吟醸は、ふくよかで奇麗な香りと優しい味が特徴。

飲み方は冷や~常温でも、ぬるめに燗をつけても◎

冷や~常温は「吟醸らしさ」、ぬる燗は「ふくよかさ」をより一層楽しめます。

【酔仙酒造】が特別な想いを込めて、「美酒」の為に出来る事を全て詰め込んだという渾身の一杯を是非お楽しみ下さい!

大吟醸

40%まで丹念に磨き上げた酒造好適米の奇麗さ、岩手県の酵母「ゆうこの想い」の香りを手間と時間を惜しまず再現した蔵人入魂の大吟醸。

熟成は氷温による瓶貯蔵でお酒へのダメージを極力無くし、吟醸香を閉じ込めています。

爽やかな味とフルーティーな香りが特徴で、飲み方は冷や~常温がおすすめ。

純米吟醸 煌琳

穏やかな吟醸香とふくらみのある味わいが特徴の純米吟醸酒。原料米を50%まで磨き、厳寒期に醸す事で飲み飽きしない奇麗な旨味をしっかりと残しています。

低温発酵による優雅な香りと純米ならではの旨味が調和し、吟醸と純米の良さを一度に堪能出来る逸品。優しい風味と甘みがちょっと特別な日の晩酌にぴったりです。

飲み方は、冷やかロックがおすすめ。吟醸らしさが引き立ちます。

特別純米酒 岩手の地酒

「酔仙らしさ」を特に感じる事が出来るのがこちらの「特別純米酒 岩手の地酒」。

柔らかでふくよかな味わいの特別純米酒です。原料米を60%まで磨く事で雑味を削ぎ、最も寒い季節にじっくりと丁寧に醸す事で優しい味わいと奇麗な旨みが調和。舌にしっかりと馴染む奥深い味わいが特徴で、芳醇でやや辛口の特別純米酒です。

素朴でありながら奇麗で奥深い味わいは岩手の風土を彷彿とさせてくれます。

バランスの良い純米酒なので、飲み方は常温でも燗でも◎

特別純米酒 多賀多

こちらは年に2回販売する地産池消のお酒「多賀多」。

陸前高田のひとめぼれを100%使用。田植えから稲刈りまで地域の方々と共に行い、氷上山の伏流水で仕上げた、地元への思い入れがぎっしり詰った特別純米酒です。

すっきりとした飲み口で、酵母による華やかな香りと後から口に広がる米のまろやかさ・甘さが特徴的。常温以上の温かさで楽しむのがおすすめです。

「多賀多」は、生産数が少ない為、ほぼ県内で消費され、発売と同時に完売するという幻のお酒です。少量しか収穫出来ない為、現在は全国展開するまでには至っていませんが、今後は少しずつ生産量を増やしていくそうです。

純米酒

純米の旨みを手軽に楽しめる、【酔仙酒造】定番の純米酒。

お米本来の持ち味を活かす為にじっくりと醸して仕上げており、お米から引き出した旨味とふくらみがバランスよく調和しています。

濃醇でやや辛口の呑み飽きしない味わいは毎日の晩酌にぴったり。三陸地方のホヤなどの肴と一緒に楽しむぬる燗は絶品!

バランスの良い純米酒なので、常温でも燗でも楽しめます。

~実際に飲んでみました~

味わいは説明にもあるように濃醇でやや辛口です。べたつかない、すっきりした味なので、非常に飲みやすくどんな料理でも合うと思います。

また値ごろ感もよく、よく晩酌されている方におすすめです。ぜひこれを飲んで東北を応援しましょう!

本醸造

じっくりと発酵させ、少しだけ醸造用アルコールを加える事でしっかりとした旨味と引き締まった辛口が楽しめる本醸造酒。舌と喉に滲み渡る辛さと旨みが心地良いお酒です。

「酔仙・本辛」と言えば熱燗。線の太い辛口は「熱燗」で燗冴えします。

引き締まったお酒が好きな方、燗酒が好きな方に是非お試し頂きたい逸品!

軽快な口当たりと喉ごしの良さが絶妙なバランスです。舌と喉に滲み渡る燗酒を是非お楽しみ下さい!

酒匠吟醸

華やかな香りと軽快な味わいが特徴の吟醸酒。

原料米を50%まで磨き、厳寒期に醸す事でしっかりと残る奇麗な風味・岩手県の酵母「ゆうこの想い」が紡ぎだす華やかで上品な香り。この両者のバランスがなんとも絶妙。

無駄な物を削ぎ落した「簡潔な麹」がもたらす軽快な味わいは料理を選びません。

熟成による奥深い味わいを求め、吟醸香を控えめに仕上げているので食中酒に最適。季節の食材とともに是非お楽しみ下さい!

冷蔵庫程度に冷やすか、常温にロックで飲むと吟醸らしさが引き立ちます。

上撰

酔仙酒造創業時からの定番銘柄、上撰「酔仙」。社名の由来でもあり、創業時のエピソードが込められた【酔仙酒造】の代表的なお酒です。

誕生以来「呑み飽きしない」酒質の追求を行い、ふくよかでありながら「進む酒」を目指し造り続けています。

呑み飽きしないので、「日常酒」として毎日の晩酌におすすめです。

季節に合わせて、夏はロックで冬は燗など、1年を通して様々な飲み方で楽しめるお酒です。

 

これからの【酔仙酒造】

震災後は大船渡市に場所を変え、新たな再スタートを切った【酔仙酒造】。守り、受け継ぎ、昔ながらの製法を追及するスタイルは今も健在で、地産地消の酒造りにより一層力を入れ、現在では震災前と変わらずに全国各地のお店で取り寄せなどを通して酔仙ブランドのお酒を楽しむ事が出来ます。

今後の【酔仙酒造】は、日本酒を取巻く環境の変化に対してうまく進化しながらも、震災前から大切にしてきた、技術と心を人から人へ伝え続ける「美酒伝承」、そして「地元の風土に合った美しいお酒」、「芳醇にして呑み飽きしないきれいなお酒」を目指して酒造りに取り組み続けていきます。

 

震災により、沢山のものを失った中で失わなかったもの。それは、歴史です。

取り戻しつつある日常と、それらを残したい、繋ぎたいと思う意志が、これまでもこれからも【酔仙酒造】の酒造りを支え続けていく事でしょう。

(提供:酔仙酒造)

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